ドイツ近代科学を支えた官僚―影の文部大臣アルトホーフ (中公新書)
潮木 守一中央公論社
中央公論社
国家と大学との関係如何は、現代日本においてもなお熱い議論を呼ぶお題であるが、本書が取り上げているのは、今から100年ほど前のドイツにおける国家と大学との関係である。文部官僚として絶大な権力を振るったアルトホーフという人物に焦点を当てつつ、その周辺で展開された人間模様、そして科学研究とポストや予算の配分をめぐる緊張関係が叙述されていく。そこで描かれている悲喜劇は、そのまま現代日本―特に理系の研究環境―に置き換えてみることがかなりの程度まで可能なものであり、評者としては笑えたり笑えなかったりするものである。
(最先端を走る理系の研究者にとって、大学の講義がどのようなもの(に過ぎない)か、資金獲得に汲々とする彼らにとって大掛かりな実験設備のいらない文系の研究者がどのように映るか、読み進めながら思い当たる節が実際いろいろあったりする。)
ちなみに、ドイツのあり方とある種の対極をなすアメリカの状況への言及が少ししかないのはやや物足りないが、それはないものねだりというものであろう。とりあえず近代国民国家の枠組みの中で生きる他ない私たちは、大学や学問研究といったものにどう向き合えばいいのか。見た目に反して古びることのないテーマを扱った好著である。
(最先端を走る理系の研究者にとって、大学の講義がどのようなもの(に過ぎない)か、資金獲得に汲々とする彼らにとって大掛かりな実験設備のいらない文系の研究者がどのように映るか、読み進めながら思い当たる節が実際いろいろあったりする。)
ちなみに、ドイツのあり方とある種の対極をなすアメリカの状況への言及が少ししかないのはやや物足りないが、それはないものねだりというものであろう。とりあえず近代国民国家の枠組みの中で生きる他ない私たちは、大学や学問研究といったものにどう向き合えばいいのか。見た目に反して古びることのないテーマを扱った好著である。
バクトリア王国の興亡―ヘレニズムと仏教の交流の原点 (レグルス文庫)
前田 耕作第三文明社
第三文明社
中央アジアの歴史と言えばイスラム化された後のものが多い中で、この本ははるか伝説の時代から古代ペルシア時代、アレクサンドロスの時代、その後のヘレニズム時代までの中央アジアの古代史がびっしり詰められている。
日本の教科書には殆ど出てこない地域の歴史だけに非常に興味深く読むことができる。
日本の教科書には殆ど出てこない地域の歴史だけに非常に興味深く読むことができる。
カラー写真ではないが写真も豊富で飽きさせない。特にコイン(古代の通貨)の写真が多く、コインマニアには絶対のお勧めである。
欲を言えば巻末に人名・地名索引が欲しいと思うほど内容の濃い書籍で、値段の割りに中身のない本が多い昨今であるが、この本に関しては定価が安すぎるくらいの設定である。
ダーウィン自伝 (ちくま学芸文庫)
チャールズ ダーウィン筑摩書房
筑摩書房
ダーウィンの死後発表された彼の自伝は、妻エンマ・ダーウィンの強い意向もあって、彼の宗教観と人物評の部分が削除されたという。この無削除版の編集に携わったダーウィンの孫娘ノラ・バーロウは、本書巻末に削除個所の一覧を示してくれているので、それらをひとつひとつチェックしてゆくだけでも面白い。彼の妻が躊躇したのもなるほどとうなずける点が多く、それだけ興味深い部分になっているのだ。温厚、誠実な人として知られたダーウィンだが、スペンサー、カーライルらなどについてのコメントは実に辛らつで、これらが読めるだけでも編者には感謝しなければならない。もちろん、ストレートな自伝としても本書は面白い。医師の息子として生まれたダーウィンは、兄弟らとともに当初医学部に進むが、結局!ものにはならず、このままでは単なる狩猟好きのごくつぶしになると危ぶんだ父親の意向によって、聖職者(!)になるべく専攻を変えるが、いざ大学を卒業するというときに偶然ビーグル号に乗船する機会を得る。その一種なりゆきまかせの彼が、後にキリスト教的世界観を揺るがす進化論を確立するのだから、なんという皮肉だろう! 本書後半の付録には、自伝の内容に関連のある書簡やメモが収められており、それぞれ興味深いが、サミュエル・バトラーとの行き違いにかかわる部分などは、やや些末にすぎるので、面倒なら飛ばしてもかまわないと思う。翻訳はあとひと息頑張ってほしいので、あえて★ひとつマイナス! なお、本書の解説を担当している新妻昭夫氏は、『ダーウィンのミミズの研究』と題するユニークな科学絵本も執筆している。いちおう小学生向けだが、ダーウィンに興味を持つ人にはぜひおすすめしたい。